2014年5月号にて、昨年度の日本ケーブルラボでの運用技術ワーキンググループの活動報告として「ケーブル運用保守ガイドライン」や「ケーブル運用情報共有システム」について紹介した。今号では今年度の活動テーマの1つである「プロアクティブ・ネットワーク・メンテナンス(Proactive Network Maintenance、以後PNM)」について紹介させていただく。
プロアクティブ・ネットワーク・メンテナンスとは英語を単純訳すると「能動的なネットワーク保守」となるが、主に“予防保全対策”を指す。

多くのサービス提供事業者において、障害やサービス品質の劣化は監視システムによる検知や利用者からの問い合わせ等で発覚し、復旧対応は事後になることが多い。
“後手”対応となることで、利用者へのインパクトも大きく、対応コストにも影響する。
その対策として様々な予防保全策が多くの事業者にて講じられているが、その多くは設備・ネットワークの定期点検や予防交換等が主である。

今回ご紹介するPNMは、障害が発生する前にその兆候をシステム的に見つけ出し、メンテナンス(予防保全策)を施すことで、常に安定したサービス提供を目指すものである。また、計画的な保守作業員の手配、作業が行えることによって、その運用コストの低減も図ろうとするものである。

実用化しつつある障害の事前検知
発生する前の障害をどうやって事前に推測するかであるが、米国のケーブルテレビ業界ではいち早くPNMに対する研究や実証実験を行っており、既に実運用段階に入っている。
米国でのPNMの技法の1つとしては、DOCSISケーブルモデムシステムのPre-Equalization(信号等化、以後Pre-EQ)機能を用いた障害予兆検知・対策実施である。
DOCSISのPre-EQ機能は様々な要因にて発生した上り信号の劣化に対し、その信号を補正(等化)することで信号品質を改善させる機能である。
Pre-EQを用いたPNMはCMTSおよびケーブルモデム内のPre-EQの係数データを収集・分析することで、信号劣化の原因となった場所を推測し、障害に至る前に保守作業員による調査・対策を講じようとするものである。
米国ではPre-EQを用いたPNMが本格運用されており、事業者ごとに独自システムを構築、もしくはソリューションベンダーからの製品を基にした運用が行われている。
また、DOCSISのPre-EQ機能の利用以外にも幹線やヘッドエンド内での計測データを基にしたPNMの試みも行われている。

他のPNMへのアプローチとしては、本誌8・9月合併号で紹介した“ビッグデータ”の活用も挙げられる。
これはPre-EQのような障害事象に直接関わるデータの応用だけではなく、関連/非関連のデータも合わせて収集・分析し、事象発生の相関関係を見出すことで、対策を講じられるようにするものである。ビッグデータの活用は機器類の障害原因分析だけでなく、入電予測やサービス利用等の利用者の行動分析に役立つものとして、実利用フェーズに入りつつある。

冒頭にてご紹介した通り、今年度、日本ケーブルラボの運用技術WGの活動テーマとしてPNMを取り上げており、国内事業者の取り組み状況やPNMの適用性について調査・検討を進めている。
WGでの調査・検討成果を事業者の方々と共有し、サービス品質の更なる向上や運用効率の向上に役立てるようにしていきたい。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2014年11月号に掲載されたものです。)