今号では「ネットワークDVR(Digital Video Recorder)」サービスについてご紹介したい。
ネットワークDVRサービスはそのネーミングの通り、ネットワークを利用してDVRの機能を提供するものである。
具体的にはサービス提供事業者のデータセンター内に構築されたストレージシステム上にコンテンツを録画(保管)できるようにし、利用者の操作に応じて、ネットワークを介して録画・再生配信を行うサービスである。

先行している欧米でのサービス事例としては、これまでのDVR同様、個人の録画物の保管・再生だけの機能の提供や、最近のハードディスクレコーダーのように大容量の録画領域を活用して複数チャンネルの同時録画を行っておき、見逃した番組に対する見逃し視聴やタイムシフト(追いかけ再生)機能を提供しているサービスがある。
利用者から見ると、録画・再生サービスにおいては使い勝手は宅内DVRと変わらないが、ネットワーク上のストレージシステム上に録画コンテンツが保管されるため、宅内DVR(STB)故障時の機器交換においても録画物を残すことができる。また、ネットワーク(クラウド)上での利用者用の録画領域やチューナー数を増やすことで、宅内端末の入替えや更新を伴わずに録画時間や同時録画のチャンネル数を増やすこともできる。欧米では同時15チャンネル録画を可能としているサービス事例もある。
見逃し視聴、タイムシフトサービスにおいても、これまでのDVRにおける録画物としての再生ではなく、電子番組表(EPG)との連動や他のコンテンツを含めた複合的なメニュー画面との連携によって、利用者の操作性向上や、他のコンテンツの視聴促進等新たなサービス訴求も図れる。

進むクラウド化
また、これまで宅内機器に依存していた機能の一部がクラウド上に移せることで、宅内機器の簡素化や機器交換に伴う運用・サポートコストの低減、クラウド上に利用者の操作情報が送られてくることで、その分析によるサービスの改善や番組リコメンド、ターゲット広告等の新たなサービス、ビジネスをサービス提供事業者にもたらすことができる。

米国コムキャスト社においては「Xfinity X1」サービスの体系の中で「X1 DVR with Cloud Technology」と称して、2014年2月より新サービスとして提供し、提供エリアを順次拡大している。コムキャスト「X1」サービスにおいてはクラウドの活用により、TV EveryWhereサービスだけでなく、番組リコメンドや、視覚的かつ操作性の高いメニューインターフェースを提供している。

ネットワークDVRは日本国内においても有望なサービスと考えるが、実現に向けては乗り越えて行かねばならない課題もある。
その主たるものは著作権と限られた領域・帯域を利用するデータ圧縮・配信技術に関するものである。
国内の著作権課題においては(ネットワークDVRではないが)、過去にコンテンツのネットワーク配信に関してサービス提供事業者が敗訴した判例はあるが、法律やビジネス事情は違えども合法的にサービスを行っている欧米の事例は参考になる。
また、クラウド時代を鑑みたコンテンツ流通と著作権の在り方についての検討が文化庁や権利者団体を中心に進められている。
ケーブルラボとしても引き続き、国内外の動向を注視しながら、ネットワークDVRの具現化に向けて検討していきたいと考えている。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2014年12月号に掲載されたものです。)