今号では自動コンテンツ認識技術(Automatic Content Recognition/ACR)について紹介したい。
ACRは現在、視聴されているコンテンツそのものの映像や音声等を解析し、そのコンテンツが何かを特定する技術である。
これまで、視聴しているコンテンツが何かについては視聴者自身の認知力や記憶、視聴端末機器の選局状態と番組表の組み合わせ等に依存していた。
ACR技術により、これらに依存することなく、コンテンツそのものから、視聴コンテンツが何かを探し当てることができる。また、録画済みコンテンツに対しても適用できる。
ACRの利用者向けの身近なサービス事例としては、スマホ等における音楽検索アプリがある。曲名が思い出せない歌のリズムを音楽検索アプリに聞かせることで、アプリがそのリズムを解析し、特徴をデータベースの情報と照合し、曲に関する情報を提供してくれる。

放送コンテンツに対するACRソリューションとしては、視聴端末等に出力される映像や音声そのものを解析し、その特徴(フィンガープリント)情報や映像等に含まれる電子透かし(Watermark)情報をACR事業者側で構築している放送コンテンツのデータベースと照合し、コンテンツが何かを判定する。
そのサービス応用例として米国では、①視聴率調査、②視聴コンテンツに応じた付加情報、広告配信、セカンドスクリーン連動、③不正コピー(配信)の調査・防止策等に利用されている。
番組連動の具体例としては、TVやスマホ/タブレット上で番組や出演者に関する補足情報を提供したり、番組参加アプリへの誘導、番組レコメンド等を行なうことで、番組への関心を高めさせたり、視聴コンテンツに応じた広告等を表示することで購買への誘導を図ることができる。更なる応用として、視聴データとインターネットサイトへのアクセス情報を収集し、視聴者の行動調査や広告効果の分析も行なわれている。
もちろん、データの収集・提供にあたっては利用者の同意確認を取る必要があるが、米国事例では同意率も高いという。

国内でのACRサービスの可能性について
米国事例における視聴コンテンツに応じた情報等の同一TV上でのオーバーレイ表示については、日本国内ではARIBの「放送番組およびコンテンツ一意性の確保に関するガイドライン」により、受信機側で放送事業者の意図とは異なる表示をその明確な区別なく表示してはならないとの規定がある(利用者操作での情報表示は可)。
視聴データの取得については、ケーブルSTBでは視聴情報収集機能が具備されており、視聴データの収集・解析を行なうことが可能である。また、次世代STBの技術仕様であるJLabs SPEC 023-01においてはSTBから一定間隔で管理データを送信できるようになり、ACRと同等の視聴データ収集が可能となった。
番組連動の情報表示についてもハイブリッドキャストやデータ放送がある。

しかしながら、ACRは実際に視聴しているコンテンツを直接解析してコンテンツ判定を行なえるところが興味深い。放送波の中に番組連動の仕組みを含めなくても、番組連動・連携サービスを提供することができる。
国内外の規定やビジネススキーム等の違いはあるが、海外でのスマートTVおよび関連サービスの普及動向によっては国内での需要や考え方も変わってくる可能性もある。
引き続き、技術・サービス動向をウォッチし、今後の活動に役立てていきたい。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2015年5月号に掲載されたものです。)