今号では先月号にて紹介した自動コンテンツ認識(Automatic Content Recognition/ACR)技術の中でも触れた電子透かし(Digital Watermark)を取り上げてみたい。
放送コンテンツにおける電子透かしと言うと、TV画面の右上に映し出されている放送局のロゴマークもその1つであるが、視聴者が知覚化できない形態で画像や映像・音声等のデジタルコンテンツのデータの中に埋め込まれる利用例が多い。
その埋め込み方法としては本稿では解説しないが、様々な技術や手法があり、デジタルコンテンツの視聴に影響が無い範囲内で、コンテンツの構成データを操作し、関連情報の埋め込み、取り出しを行なう。

電子透かしの第一の利用用途としては著作権・コンテンツ保護の一環として、デジタルコンテンツの不正コピー(流通)や改ざん検知等に用いられている。
著作権・コンテンツ保護以外の目的ではコンテンツに関する付加情報やアプリ連携に関する情報を埋め込んでおき、スマホやタブレット等で「透かし」情報を読み取り、その内容に応じた付加情報の表示や連動アプリ等を起動する利用例もある。
電子透かしとして埋め込まれる情報もその利用用途に応じて様々であるが、著作権情報やコピー回数等のそのコンテンツに関係する情報が埋め込まれる。
ちなみにコンテンツと関係の無い情報を埋め込むことを「ステガノグラフィ」と言う。
また、デジタル処理された印刷物に埋め込まれた透かし情報も電子透かしの範疇で扱われることもあるが、「地紋透かし」とも言う。

何処で電子透かしを埋め込むかもその用途によって様々であるが、そのコンテンツの大本の配信元(制作元)、配信事業者内、(末端受信者に近い)端末等が挙げられる。
末端受信者に近い箇所で、その受信者に応じた電子透かしを埋め込むことで、その受信者以降のコンテンツの追跡や利用者に応じた関連動作を行なうことが可能となる。
具体的にはコンテンツを利用者の要求に応じてダウンロード配信する際にその利用者の識別子情報(会員ID等)を電子透かしとして埋め込んでおくことで、不正流通が発生した際に、その利用者から追跡することが可能となる。

 また、その利用用途に応じて、画像圧縮や編集・加工等に対する「強度」を合せることも行われている。耐性の高い電子透かしは著作権管理等に優れていたり、また、耐性の低い電子透かしは改ざん検知等に用いられたりする。

ケーブル事業でのユースケース

ケーブル事業者のコミュニティチャンネル放送で著作権保護の観点で電子透かしを利用するケースも考えられるが、番組への付加情報の表示やスマホ/タブレットを利用した放送連動のアプリを提供の可能性もあるのではないかと考える。
また、米国の映画会社が共同で設立した映像品質の高度化やコンテンツ保護技術の標準化を推進しているMovieLabsが策定したデジタルコンテンツの配信に関するガイドラインの中で、コンテンツ配信における暗号化強度と併せてWatermarkの導入を提唱しており、ケーブル事業者においても何らかの形でコンテンツ配信におけるコンテンツ保護技術の高度化対応が求められてくる可能性がある。
日本ケーブルラボにおいても引き続きサービス動向や技術調査を行ない、4K/8K時代のコンテンツの調達・配信がスムーズにできるように努めていきたいと考える。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2015年6月号に掲載されたものです。)