仮想化技術がここ数年注目されてきている。古くはコンピュータシステムにおける仮想化メモリに始まって、ネットワーク回線における仮想化プライベートネットワーク(Virtual Private Network、VPN)や、サーバーやストレージの仮想化によるシステムの冗長化・リソースの効率化が図られてきた。
一言で言えば、仮想化技術は物理的なリソースをソフトウェアで制御することにより、リソースを抽象化させ、動的なリソース割当と稼働環境分散(負荷分散)を可能とする技術である。

Software Defined Networking
これまでネットワークの世界における仮想化と言うと、VPNが代表に挙げられるが、最近ではSoftware Defined Networking(SDN)という概念にて、企業・事業者内のネットワークトラフィックを動的に制御することが可能となる技術が出てきた。
動作原理としては、スイッチ装置やルータ装置に対する新たな制御プロトコルである「OpenFlow」等を利用して、専用コントローラシステムにて複数台のネットワーク機器を集中管理・制御することで、これまで個別に行っていた設定変更作業を短時間で、かつ動的に集中制御することが可能となる。
SDNにより、企業・事業者にとってはサービスやシステムの動的な変化に応じてネットワーク帯域の割当制御を動的に行うことができ、より柔軟かつ効率的なリソース運用が可能となる。

NFVとvCPE
SDNと合わせてNFV(Network Functions Virtualization)とvCPE(Virtual Customer Premises Equipment)という言葉を目にする。
NFVは、ネットワーク内のデータセンター等に設置されるファイアウォールやDPI(Deep Packet Inspection)装置等のネットワーク機器の機能をソフトウェア処理部分と物理インターフェース部分に分け、そのソフトウェア部分を汎用サーバーシステム上で集中的に処理するものである。
vCPEはこれまでサービス機能ごとに提供されていた利用者端末(CPE、例えばSTBやeMTA等)の機能をNFV同様、機能提供のためのソフトウェア部分を事業者側ネットワーク(データセンター等)側で処理し、利用者環境にはサービス機能を提供するための物理インターフェース(HDMIやRJ-11/45、WiFi等)を持つ汎用的なボックスを置いてサービス提供するものである。

ケーブルサービスでの仮想化技術の応用
ケーブル業界でのネットワークの仮想化の効能としては、これまでのサーバーシステムやストレージの仮想化に加え、SDNやNFVの導入により自営ネットワークの効率性を更に高めることが可能となる。
米国のケーブル業界ではCMTS(Cable Modem Termination System)を「OpenFlow」対応とするのではなく、DOCSISのPacketCable MultiMedia(PCMM、回線品質の動的制御機能)をSDNコントローラに組み込ませることで、「OpenFlow」等によるネットワーク制御と合わせた複合的なトラフィック制御を可能にしようとしている。

端末機能の仮想化(vCPE)は利用者側機器の追加・変更を伴わずにサービス追加や変更が可能となり、利用者にとっても、事業者にとってもメリットが大きいと考える。
実現については、センター側設備の処理能力やネットワーク帯域および権利処理等の課題はあるが、技術的には可能になりつつある。すでに海外ではネットワークDVRやSTB操作画面のサーバー側合成等、仮想化・クラウド技術を応用したサービスが具現化してきている。
仮想化は利用者・事業者にとって効果をもたらすものでもあるが、サービス提供のスキームにも大きく変化をもたらす可能性がある。引き続き、技術・サービス動向についてウォッチしていきたい。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2014年6月号に掲載されたものです。)