今号では先月号で紹介した宅内ネットワークサービスを支えるネットワークの高速化を取り上げる。
宅内ネットワークを流れるトラヒックは、今や各種動画サービスが過半を占めるようになり、さらに高画質化が進み、快適な試聴には宅内ネットワークの高速化が必要になってきた。
宅内ネットワークは、既設の同軸ケーブル、電話線、電力線を使った有線LANあるいはWi-FiやBluetoothなどを使った無線LANで構築されるが、両方を組み合わせる場合も多い。有線LANは、通信の安定性や低遅延などの長所を持つが、煩わしい配線が不要で移動性に優れ、次々と高性能化するWi-Fiを使った無線LANが現在は主流になっている。

Wi-Fiは、少し前まで2.4GHz帯と5GHz帯で使えるIEEE 802.11n(以下802.11n)が主に利用されていたが、2014年に飛躍的に高速化した第5世代のIEEE 802.11ac(以下802.11ac)が規格化された。
802.11nの規格上の最大通信速度は、2チャネルボンディングの40MHz幅で、新規導入のMIMO(Multi Input Multi Output)技術により4アンテナで最大4ストリーム(4×4 MIMO)送信すると600Mbpsである。802.11acは5GHz帯だけ使う規格で、最大8チャネルボンディング160MHz幅のストリームを8つ(8×8 MIMO)使って規格上6.9Gbpsという桁違いの高速化を達成している。ただし、商品化されているのは、4チャネルボンディング、4ストリームで最大1.7Gbpsがハイエンドである。

ここまで高速化すると、動画サービスが数Mbpsないし4Kでも20~40Mbpsであるから当面十分だと思われるが、電波環境次第で桁違いに通信速度が低下することは多くの読者も知るところであろう。また、端末がアクセスポイント(Wi-Fi内臓のケーブルモデム、STB、ルータ等、以下AP)よりも低スペックだと、端末で制限されることは言うまでもない。
2.4GHz帯で問題となる帯域を共用する機器や、他Wi-Fiとの電波干渉によるスループットの低下や不安定化は、比較的空いており、2.4GHz帯と違い隣接チャネルの周波数が重ならない5GHz帯の使用で改善できる。
GHz帯を使う宿命として宅内というスケールでも電波の減衰によってスループットが低下する。802.11nからMIMOで複数のアンテナを使うようになり、送信時にアンテナ間の信号位相を調整して合成波が受信点で最大となるように制御するビームフォーミング(アンテナ指向性制御)がオプション導入された。802.11acでは標準となり、APから遠い地点でのスループット改善に威力を発揮するだろう。
さらに、802.11nのMIMOはAPと1端末間を高速化するだけだが、802.11acのマルチユーザMIMOでは最大4端末、端末当たり最大4ストリーム、1AP当たり最大8ストリームまで使用可能となり、ネットワーク全体のスループット向上を図っている。これも宅内ネットワークの高速化に有効である。

米国においても同様にWi-Fiが宅内ネットワークの主役であり、米国ケーブルラボでは標準的な戸建て住宅(日本よりは相当大きい)を使い、隅々までGbpsクラスのスループットが得られるようにすることを目標にトライアルを実施している。宅内に3ヶ所APを設置すると98%カバーできたとの報告もあるが、AP間の接続には既設配線を使った有線LAN機器を想定している。

日本ケーブルラボでは、引き続き国内外の宅内ネットワーク技術の動向調査や課題に対する取り組みを行ない、ケーブル事業者の方々に情報発信していきたい。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2015年10月号に掲載されたものです。)