今号では放送・通信分野のアクセシビリティについて取り上げる。アクセシビリティ(Accessibility)とは、一般的には「利用者が機器・サービスを支障なく利用できること」を意味し、高齢者や障害の有無などにかかわらず、すべての人がハード、ソフト及びそれらを用いて提供されるサービスを利用する際のアクセシビリティを確保し、向上させることが求められている。

国内においては、平成9年に放送法が改正され、テレビ放送事業者は、字幕番組・解説番組をできる限り多く設けるようにしなければならないこととする放送努力義務が規定された。
また、電気通信機器等について、旧郵政省が策定した「障害者等電気通信設備アクセシビリティ指針」(平成10年)を踏まえ、「高齢者・障害者等に配慮した電気通信アクセシビリティガイドライン」(平成12年)が民間団体の情報通信アクセス協議会によって自主的に策定された。
さらに、高齢者や障害者等がインターネットのウェブへ容易にアクセスできるようにすること(ウェブアクセシビリティ)を目的として、「インターネットにおけるアクセシブルなコンテンツの作成方法に関する指針」(平成11年)が策定された。

これらガイドラインを基に日本工業規格JIS X 8341-1~7「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス-第1~7部」が策定されている。例えば、JIS X8341-4「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、,ソフトウェア及びサービス-第4部:電気通信機器」は、機器のアクセシビリティを確保、向上するために企画・開発・設計するときに配慮すべき事項を規定している。
JISへの準拠は基本的に任意であるが、工業標準化法第67条により国及び地方公共団体は、技術基準や購買仕様を定めるときに尊重義務が発生する。民間においても、主にシニア層を対象に、①文字が大きい、音が聞こえやすい(骨伝導技術も含む)、文字サイズや音量を適切なレベルに調整可能とする、②表示と操作の関係などを自然な感覚に沿わせ、誤操作に対しても許容性を持たせる、③入出力機能の高度化・多様化(音声認識、手書き入力など)、④用語の分かりやす易さへの配慮、等の対応が進んできた。ケーブル業界でもSTBのリモコンやポータルを使いやす易くする取り組みが続けられている。

一方、米国では「21世紀における通信と映像アクセシビリティに関する2010年法」が成立している。
この法律の第I章「通信へのアクセス」では、①インターネットベースの電話への補聴器との互換性義務化、②誰とでも通信できるようにリレーサービスの使用を許可、③アクセシブルな次世代通信機器およびサービスの義務化、等が規定された。
また、第II章「ビデオ番組」では、①ビデオ番組への音声解説とテレビ音声の字幕表示の義務化、②受信・録画・再生機器への字幕表示機能と音声解説機能の義務化、③受信・再生機器へのアクセシブルなユーザーインターフェースの義務化、④多チャンネル視聴機器で提供される番組ガイドやテキストメニューを聴覚により利用できるようにすることの義務化、等が定められている。

米国の放送・通信事業者は、項目によっては1年~数年以内(事業規模による)という期限付きでこの法律への対応を迫られているが、ただ義務を果たすだけでなく、イノベーションを加速してお客様満足度を向上させる好機であるととら捉えて、積極的な商品・サービス開発を行っている。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2015年11月号に掲載されたものです。)