今号ではクオリティ・オブ・エクスペリエンス(QoE:Quality of Experience)について取り上げてみたい。QoEは、ユーザ体感品質と訳されるが、提供されたサービスに対してエンド・ユーザによって「主観的」に知覚されるアプリケーションやサービスの全体的な受容性であるとITU-T勧告P.10/G.100では定義されている。主にネットワーク性能を表し、定量的な指標で評価しやすいQoS(Quality of Service)に比べると、QoEは主観的に知覚された結果であるため評価が難しい。
QoE評価方法には、評価者による心理評価に基づきサービス品質を定量化する「主観品質評価法」と測定可能な物理量から主観品質を推定する「客観品質評価法」がある。前者は、時間と労力がかかり、また専用の評価設備(ブースやAV機材)が必要であるため、監視・運用への適用を目的に後者への取り組みが盛んになっている。

では、どのような測定可能な物理量(指標)からQoEを推定することができるであろうか。QoS評価で一般的な速度、レイテンシーに加え、パケット損失も重要である。これら指標について、①ユーザが実際にサービスを利用するエリアに関連付いたものであり、②最繁時間帯を含む十分長い期間の平均値を用いることで、ユーザ体感に近づけることができる。
しかし、どのようなサービス、アプリケーションかによってどの指標が重視されるべきかは違ってくる。Web閲覧では、短いバーストトラヒックに耐え得る速度が必要であり、また、ダウンロード時間が長引かないようにレイテンシ―とパケット損失を低く抑える必要がある。
ビデオアプリケーションでは、持続的に高い速度を得られることが第一に重要である反面、始まりを除けばレイテンシ―はあまり重要ではなく、パケット損失も速度が低下するほどでなければ影響は少ない。Netflixの米国ISP速度インデックスやGoogleのビデオ品質レポートはユーザによく知られているが、専門家によれば、限定的な速度測定結果でありOTTのQoE指標としては不十分であると言われている。
ネットワークゲームは、速度の高さを要求されるものがあり、さらにレイテンシ―とパケット損失が大きいと反応の遅れでQoEは低下してしまう。電話は低速サービスであるが、レイテンシ―とパケット損失を低く抑えなければ通話の円滑さが損なわれ、ユーザは品質劣化と感じる。

このように同じネットワークでもサービス、アプリケーションによってQoEは異なってくるため、総合的に評価する必要がある。そこで、前述の①、②の条件を満たすように収集した指標データを使い、代表的なサービスごとに評価格付けしたものを横並びにして総合的な評価とするような手法が提案されている。ここで、代表的なサービスとは、Web閲覧、ビデオ、SNS、ゲーム、アップ・ダウンロード、電話、等である。
このようにQoEを総合的かつサービスごとにきめ細かく評価することで、ネットワークの現状について改善すべき点を抽出して対策すること、さらには将来的なネットワーク設計を効率的に推進することが可能となる。

日本ケーブルラボでは、トラヒック管理、設備増強、速度測定などの運用面における指針を示し、安定的なネットワーク運用の一助とするべく「ネットワーク速度・帯域管理ガイドラインJLabs DOC-028 1.0版」を2015年6月に策定した。引き続きトラヒックや技術の動向調査を行ない、QoEの向上に資するガイドラインとなるよう改定していきたいと考えている。

(本内容は、『ケーブル新時代』(発行:NHKエンタープライズ)2015年12月号に掲載されたものです。)