2019年4月6~11日に米国・ラスベガスにて「NAB SHOW 2019」が開催されました。日本ケーブルラボからは2名が参加し、技術調査を行いました。
NAB SHOWは全米放送事業者協会(NAB:National Association of Broadcasters)が主催する世界最大級の放送機器展で、1991年より毎年ラスベガスで開催されています。
約10万人が来場した今年の展示会は、例年通りラスベガスコンベンションセンターで開催されました。来場者がIP関連、大手クラウド事業者の展示が中心のSouthhallに集中する様子が印象的であり、注目の高さが伺えました。
NABのゴードン・スミス会長のオープニングスピーチでは、ATSC3.0※1の2019年中の商業放送開始をアナウンスしており、受信端末はテレビだけに限らず、モバイル機器や車載器まで広げてネット動画に対抗する姿勢がうかがえました。また、受信端末をモバイル機器へ搭載するために、端末ベンダーへの協力が必要であることを訴えていました。
ATSC3.0は2018年4月よりアリゾナ州フェニックスで試験が開始され、さまざまなベンダーが端末試験などを実施、2019年内に40局、2020年内に追加で20局、合わせて60局で商業放送開始が予定されています。また、日本のハイブリッドキャスト技術を利用したアメリカ初のデータ放送も開始され、防災情報やパーソナライズド広告に利用される予定です。
展示では、AIとクラウド、スタジオ仮想化、E-Sports、8Kがキーワードとして挙げられます。映像編集のIP化・クラウド活用が進んでおり、スタジオや映像編集にはAIの活用が当然の様相と感じられました。AIを活用したスマートスタジオとしては、センサーやマシンラーニングで出演者を追従・映像の切り出しを自動で行うことで省力化を実現するソリューションが紹介されていました。
映像編集のIP化は仕様の策定も進んでいます。SMPTE2110※2に関しては、JT-NM(Joint Task Force on Networked Media)が2019年3月に実施した「JT-NMテストプログラム※3」の結果を紹介し、またNewTek社は圧縮を前提としたNDI※4を紹介しました。同社はすでにSDKを無償公開しており、会場でも約70社が対応製品を展示していました。
クラウド事業者はパートナー企業と連携して編集や配信を含めたワークフローのプラットフォーム提供の紹介を行っていました。特に、AI映像解析による映像コンテンツへのメタデータ付与やハイライトシーンの自動作成、自動マスキングなど映像制作の省力化を実現するソリューションが多く展示されていました。
E-Sportsはデモイベントが会場各所で開催されており、プレイヤの操作画面や表情、ハイライトシーンなど、複雑かつ大量のデータを高速でライブ編集する必要があることが示され、これまでとは違う技術的対応が必須であると感じられました。
8Kは、米国・中国の多くのベンダーが8Kワークフローに対応したスイッチャーやサイネージウォールなどを展示して、映像制作への活用や次世代の映像メディアとして認知されているようでした。
※1 ATSC3.0
米国の放送、家電、IT業界等125以上の会社から構成されるAdvanced Television Systems Committee(高度テレビジョン・システム委員会)が策定した、次世代のデジタルテレビジョン放送規格
※2 SMPTE2110
SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers:米国映画テレビ技術者協会)が策定した非圧縮のIPプロダクト規格
※3 JT-NMテストプログラム
IPプロダクト関連製品がSMPTE2110、SMPTE2059規格にどのように適合しているかを試験するプログラム
※4 NDI(Network Device Interface)
NewTek社によって開発されたライブ中継映像用の標準規格