DOCSIS
ケーブルテレビの通信技術DOCSISの特徴
現在、ケーブルテレビの双方向データー通信サービスは、「ケーブルモデム(CM)」というシステム機器を利用してサービスが行われていますが、これにはプロトコルの一部に一般に知られている「Ethernet」とは違う通信制御方式「DOCSIS」を使っています。ケーブルモデム、特にDOCSISの特徴について解説する情報が少ないので、ここではDOSISの概要の基本となる通信制御について記述します。
◆通信制御とは:
通信制御は、一般的には「プロトコル」という言葉が使われます。この解説では、ケーブルテレビのネットワーク構造に双方向データー伝送機能を実現するための「仕組み」、すなわち、分岐を繰り返して、ツリー(木の枝)状になっている同軸ケーブルネットワークに効率よく双方向通信を成立させる仕組みを指して「通信制御」という語を使っています。「図1 CMTS(Cable Modem Termination System)と CM( Cable Modem )周辺におけるデーターの流れ」のメディアアクセスコントロール( Media Access Control [MAC] )とDOCSIS 物理層を示すという意味です。

DOCSISが目標とする、同軸ケーブルネットワークシステムに双方向通信を成り立たせるための「通信制御」の要件は、次の課題を解決することにありました。
1)ネットワークの実距離がEthernetに比べて長距離である
2)ネットワーク内で近距離に位置する端末、遠距離に位置する端末が多数混在する
3)上り回線、下り回線共に多くの端末が少ない周波数帯域を共用する
4)回線利用効率を高く維持する
◆ネットワークの物理的大きさが通信制御を変えた:
ケーブルモデムがEthernetの通信制御方式を使わない理由は、ケーブルモデムが通信制御する単位のネットワークの規模が遠距離となることにあります。Ethernet 開発で想定した事業所内部では100m程度の距離で同一の通信制御の単位をまとめることでしたが、ケーブルモデムの要求は半径20Km程度の距離を同一通信制御の単位とする目論見がありました。つまり、通信線の利用効率は短距離を想定したネットワークより低下することになり、これを改善する新たな通信制御方式が必要でした。
Ethernetの基本的な通信手順(通信プロトコル)として使われるCSMA/CD方式(Carrier Sense Multiple Access / Collision Detection)は、中心となる管理者がなく各端末が各々回線の空き具合を監視して回線を使用します。言うならば「早いもの勝ちルール」で通信権利を獲得します。
これに対して、回線利用スケジュールをセンターが調整し、回線使用権利を付与する方法があります。回線を利用する端末機は利用要求をだして使用権利が与えられたら通信を開始します。
初版のDOCSISでは、上り回線に複数の周波数帯域を使う( FDMA : Frequency Domain Multiple Access )方式と多数の端末機が一つの周波数帯域を時間分轄して使う( TDMA: Time Domain Multiple Access )方式を併用し、下り回線は多数の端末機が一つの周波数帯域を時分割多重して使う( TDMA )方式を使用します。DOCSISが採用した方式は、端末の通信回線使用要求毎にセンターが端末へ回線使用権を貸し出す管理方式です。
◎ ここまでは、ケーブルテレビの特徴であるネットワーク構造にケーブルモデムを構築する
基本(主に物理層 、データーリンク層、ネットワーク層 )的な部分の記述をしました。
以後は、多彩な用途に対応するための工夫と進化に対応する準備の痕跡を探ります。
◆ケーブルモデム が期待された 多様な用途:
開発当時、米国では、1984年に電話会社が分割化され「ベビーベル(Baby Bell)」が生まれました。ベビーベルは個々にケーブル事業に参入する気運を示してきたので、これに対抗するための多種用途に利用できる要件が出されました。
1) 電話機能が併用できる
2) デジタル動画映像を伝送する
3) インターネットのデーター伝送を提供できる
伝送される内容によって伝送品質の要求条件が変わります。具体的には、電話の音声伝送は双方向で間延びを嫌い、実時間連続伝送を求めます。動画映像伝送も実時間で連続伝送が必要ですが、放送は一方向伝送が主体です。送信開始時に若干の先行時間を持って伝送を開始して、伝送が部分的に途絶えても受信機のメモリバファーによって再生時の断続時間を吸収すれば受信者にとっては、途切れの無い伝送だと感じます。
また、番組放送完了までの長時間6~15Mbpsの広帯域な伝送が必要です。
◆基本的なパケット単位は MPEG 形式:
時分割多重の伝送方法は複数の使用者が同時に回線を使用させるため、伝送されるデーターを固定長のデーターサイズ ( パケット) に分割し使用権を割り当てて使います。既存のパケットサイズは種々存在します。サイズが大きくなると受信者IDや送信元IDなどのヘッダー部分がデーター内容(ペイロード)に比べて少なくなり一見伝送効率が高まるように思います。しかし、回線の伝送品質が低い場合ノイズなどでパケットが欠損しやすくパケット単位の再送信が頻繁に発生すると、全体の伝送効率は低下します。またパケットサイズを小さくすると再送信パケットに含まれる正常なデーター部分は減るのですが、パケット毎に付加するヘッダー部分がペイロードに比べて大きくなり伝送効率を低下させることになります。また、電話やインターネットなどは外部の様々な回線と接続されるので外部回線と変換互換の容易さも考慮され、回線の伝送品質や伝送データー内容に応じたパケットサイズが選択されます。
ケーブルテレビは本来放送番組を伝送するための設備です。同様に MPEG もデジタル放送番組を伝送する手段として考慮されたものです。DOCSISではパケット分割単位をミニスロットと呼んでいて、下りデーターのミニスロットの形式はMPEG‐2トランスポート・ストリーム(TS)の形式に類似した188バイトのパケットサイズを採用しています。下りのミニスロットにはデーターを受信すべきCMのIDが記載されていてCMは自分のIDを確認しデーターを取込むことで受信動作が行われます。また全てCMが受信すべきIDも用意されています。のこのことはデジタル動画伝送をIPのパケットに書き込むことなしに、直接DOCSISの下り信号の一部として多重化できる方式であること意味します。DOCSIS策定当時としては送出ソフトの流用、装置製作の時間短縮など、無理に新たな定義をしないメリットを持っています。
◆ DOCSISの制御方式は、多種用途にも対応できる:
DOCSISが採用したパケットのサイズ (188 バイト) は、電話交換網で一時期大量に使用されたATM ( Asynchronous Transfer Mode )のデーター部分と整数倍(ATMパケット53バイトから制御5バイトとヘッダー1バイトを除いて4倍すると188バイトになる)の関係にあり、ATM交換機と比較的容易な相互接続性があります。この互換性はATM交換機経由で放送番組を中継するための考慮です。
他に、多目的用途の準備として、DOCSIS 端末が出す要求には通信の用途や優先度、使用タイミングなどの情報が記述できる情報割当て部分が用意されていることがポイントで、これがQOS制御の元情報として機能します。回線使用権をセンターが管理しているので、電話に必要なデーター流量、デジタル番組の伝送に必要なデーター流量などをセンターが把握できます。データー流量(所要帯域)を満すため循環的にミニスロットの使用権利を付与することが容易に行える構造になっているのです。これは、QOS 制御の一方法と考えられます。
定期に発生するミニスロット以外の余裕ミニスロットを、インターネットアクセス用途に割り当てます。メールや情報検索用途のIPデーターをDOCSISの制御ヘッダーで包み込みこんで伝送るとインターネットアクセスになるというわけです。先に述べたDOCSISに要求された用途要件もこの方式によって各々満たされています。
◆ DOCSISの規格は先々まで仕組まれている:
1996のVer.1.0以来のDOCSISバージョンによる機能の進化を表1にまとめます。
|
|
DOCSIS 1.0 |
DOCSIS 1.1 |
DOCSIS 2.0 |
DOCSIS 3.0 |
|
特徴 |
相互接続を可能 |
最低帯域保証 |
上り速度強化 |
チャネル |
|
通信の主体 |
ベスト |
VoIP サービス |
マルチキャスト VOD |
マルチキャスト QOS |
|
伝送速度 (最大) 下り/上り |
40Mbps /10 Mbps |
40Mbps /31 Mbps |
160 Mbps(256QAM) /120 Mbps(64QAM) |
|
|
セキュリティ |
ベースライン プライバシー インターフェース |
新セキュリティ仕様 |
||
表1 DOCSISバージョン毎の機能比較
◆まとめここではDOCSISの基本部分である通信制御について、DOCSIS3.0の追加機能にこだわらず記述しました。DOCSISは開発当初から高い目標を実現するシナリオをもって進化発展してきました。このセンター管理型通信は利用できる機能について広い発展性を備えており、版数が進む毎に各バージョンは方式の後方互換性をとりながら確認修正された機能が徐々に公開されるステップを進めてきたと云えます。例えば、IPマルチキャストの実現はDOCSIS2.0から対応していますが、3.0では、ソーススペシフィック・マルチキャスト(ケーブル事業者が特定のサービスを行うマルチキャスト方式)として機能拡張しています。
DOCSIS3.0の詳細は旧ラボ会報の別冊に詳述があるので参照してください。
http://www.jlabs.or.jp/images/stories/PDF/JCL_Docs/Labodayori/sp1_docsis3.0ocap.pdf
他方、先述したように伝送形式がMPEGの基本形式であり、元々番組伝送に都合のよい形式であることから、これを活用してMotorolaがDIBA(DOCSIS IP-video Bypass Architecture)を IEEE に提案しています。これは番組選択までIPを使い、番組伝送には IP を使わない、簡素化パケット(MPEGの形態)伝送をDOCSISチャネルに直接多重化する方法です。
http://broadband.motorola.com/BCnewsletter/0507_docs/MOTOROLA%20DIBA%20SCTE%20ET%20Paper%202007-final.pdf
米国のケーブルラボからは、DOCSIS仕様群の他にも、音声と映像の伝送に関する仕様であるPacketCable、ケーブルモデムを組込むアプリケーション用の仕様書群として、eSAFE (Service/Application Functional Entity) 、eMTA (Embedded Multimedia Terminal Adaptor) 、 DOCSIS CM を組み込んだ機器 CPE (customer premise equipment )の仕様 eDOCSIS、
eDOCSIS: http://www.cablelabs.com/specifications/CM-SP-eDOCSIS-I19-091002.pdf
HE の外部にあるコントローラから CM 組込機器間の制御に関するする仕様である DOCSIS Set-top Gateway ( DSG : DOCSIS Set-Top Gateway )、
DOCSIS Set-top Gateway: http://www.cablelabs.com/specifications/CM-SP-DSG-I14-090529.pdf
DOCSIS CMを組込んだホームネットワーク用ルーターの仕様としてeRouterなどが策定されていますので、ケーブル事業者は大いに参考にしてください。
eRouter : http://www.cablelabs.com/specifications/CM-SP-eRouter-I03-070518.pdf
参考資料:
[SCTE 23-1] DOCSIS 1.1 Part 1: Radio Frequency Interface, ANSI/SCTE 23-1 2005.
[SCTE 79-1] DOCSIS 2.0 Part 1: Radio Frequency Interface, ANSI/SCTE 79-1 2007.
[DOCSIS-RFI] Refers to both [SCTE 23-1] and [SCTE 79-1].
Information Technology - Generic Coding of Moving Pictures and Associated Audio:
Systems, Recommendation H.222.0, ISO/IEC 13818-1, Section 2.6.17
IEEE Std 802.3 Part 3: Carrier sense multiple address with collision detection (CSMA/CD)
access method and physical layer specifications, IEEE, March 8, 2002.
[ITU-T H.222.0]
ITU-T Recommendation H.222.0 (2000) and ISO/IEC 13818-1:2000, Information
technology - generic coding of moving pictures and associated audio information systems.
[ISO/IEC10038]
ISO/IEC 10038 (ANSI/IEEE Std 802.1D): 1993, Information
technology - Telecommunications and information exchange between systems - Local area networks - Media access control (MAC) bridges.
DOCSIS® は米国 Cable television Laboratories社の登録商標です。
| < 前 | 次 > |
|---|


